雪の降る町、雪町一味のこと

 

 俗に「雪の降る町一味」と呼ばれる集団を知っているだろうか。彼らが写った写真は「雪の降る町の画像」みたいなふわっとした呼び名でよばれている。インターネットの、特に巨大匿名掲示板において長年に渡って愛され続ける画像だ。

 

 これが「雪の降る町の画像」。

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 出所が全く分からない、この画像。*1 私はこの画像が大好きで見るたびに元気づけられている。彼らについてのスレッド(通称「雪町スレ」)が立てられ、そこで住民たちが思い思いの印象を書き込んだり時には強さ議論するのを見るたび、またそれがまとめられた記事を見るたび、温かい気持ちになる。

 その印象(偏見)というのは具体的には、「心理の心理感」「戦場のオナニストの本体は人形説」「心理とかいうポケモンなら必ずエスパータイプな男」「こまちの土下座したら単位くれそうな教授感」「たぶん最終話のサブタイトルが雪の降る街」「ネギさますきお小遣いくれそう」「心太は心理の弟子だから『しんた』と読む説すき」、というようなもので、私はこれを見るのが楽しくて嬉しい。彼らに対する「誰々は何何そう」といった書き込みは、雪町スレが何度も立てられているため無数に存在する。

 

 私の”勝手な想像”では彼らは二度と集まることはない。それぞれの人生を歩んできた彼らはインターネット史に残る歴史的なめぐり逢いを果たし、そしてJR西川口駅西口の近辺で数時間だけ交差して、またそれぞれの人生に戻っていく。私はこのプロセスの尊さとはかなさに時折想いを馳せる。そのようなことを考えているうちに『スタンド・バイ・ミー』を観た後みたいな気持ちになる。

 写真の中でこちらに向けて微笑みかけてくるアイドルや俳優が永遠に歳をとらないのと同じで、彼らはいつまでも九者九様の表情を見せてくれる。ネギさま氏は面倒見の良さそうな雰囲気だし、雨坊主氏は雪の降る町氏を半笑いで温かく見守っており、ハデス氏はどことなく不服そうな照れたような表情をして、戦場のオナニスト氏は「まじかるひよりん」のぬいぐるみを虚空にそっと添えていて、名前が読めないトリップの人は友達の優しいお父さんのようにニコニコしていて、心理氏は黒い鞄のなかできっと拳銃を握りしめており、こまち氏は多分みんなに愛されるいじられキャラだし、カプコンのバッグを肩掛けする雪の降る町氏は物凄く恐ろしい顔で右の方をにらみつけていて、心太氏の胸ポケットはパンパンだ(きっと夢がいっぱい詰まっているのだろう)。写真は本当に素晴らしいメディアだと再認識する。写真、カメラとは一瞬と永遠を等号で繋ぐツールである。

 そう”勝手な想像”である。それが鍵なのだ。この画像には”勝手な想像”で埋めたくなる余地と、そして想像をかきたてるようなフックがたっぷりと含まれているわけである。これは長く続く作品の特徴でもある。だからマンガとかアニメとかゲームとかにも当てはまる。描かれていない部分を受け手が補い、そして読者同士で語り合い、同意したり反論したりして耕されていくコンテンツ。

 「雪の降る町の画像」には想像のキッカケとなる明示された要素と明らかにされてない領域が——地球の海と陸のように、あるいは陰と陽のように——バランスよく含まれている。だからこそ何度も何度も同じ画像でスレが立つわけである。何度も何度も話題になることこそが「雪町画像」が良質なインターネット面白画像である何よりの証拠ではないだろうか。

 

 

 

 

*1:元々あった写真に適当なハンドルネームをつけたことで出来た画像らしく、そもそも彼らの本当の名前でさえ明らかになっていない。写っている人間の本来の呼ばれ方と黄緑文字で示された名前は全くかけ離れているらしい。←この情報も真偽が定かではない