破滅型のひと

 

 生き急いでいるのではないかと指摘を受けた。あんまりピンと来なかった。自分にしてみれば成人するかしないかで結婚するより先に子どもを作ってしまう人の方がよっぽど生き急いでいる。まあそれはそれとして。

 ゾクゾクしたくてたまらないときがある。良くない終わりが待ち受けていることは分かっているのにそこへ進んでいきたくなるときが。誰しもが持つ欲望だと思っていたが、そうでもないらしい。高いところにのぼると飛びたくなる。高速道路を車でガーっと走ってると、どんどんアクセルを踏み込んで、急にハンドルを切りたくなる。鼻にツンとくる死の匂いを嗅ぎたい自分が時々現れる。好奇心の言葉だけでは説明できない衝動。破滅に向かってどんどん進んでいることが分かっていても立ち止まりたくない。どんどん終わっていく自分をもう一人の自分が傍観していたい。もしかしたら、これは「死に急ぎ」なのかもしれない。身体の中に、終焉に向いた矢印が備え付けられた人とそうでない人がどうやらいるらしい。もしかしたら自分は前者なのかもしれない。いつ頃からかそう思う。

 不倫や不貞はハッピーエンドじゃないことが分かっているから、行きつく先が崩壊だから人はのめりこむんじゃないの。と言ったらそれは違うのではと返された。何人からか異口同音に。どうやら世の人はそんな変に俯瞰した楽しみ方をしているわけではないみたいだ。関係性そのものに耽溺しているということなのかな。どうでもいいんだけど。

  ギャンブル狂いとかお酒をガバガバ飲む人種もまた破滅的な志向を持っている。一体自分に何の恨みがあるんだろうか……と彼らに思いをはせることがある。それから大盛りマシマシ系ラーメンを常食する人。内側に向いた攻撃性が食にまつわる領域で弾けている。破滅型とはちょっと質が違うかもしれないが、彼らはある種誠実で優しい人種であることに間違いはないと感じる。

 破滅型の人間はパワフルでギラギラとしている。そのエネルギーは躁的だ。死に吸い寄せられることと引き換えに高い爆発力の燃料がいくらでも湧いてくるのだと思う。

 私自身が日常的にギラギラするのはお風呂上がり、それも熱々の湯船から出てきた時だ。明らかに心臓に良くない温度によって赤らんだ身体から湯気がホカホカと立ち上っている時が一番パワフルで、電車に張り手をすれば横倒しに出来るという根拠のない確信がある。それからきっとインド象でも気絶させられるし、一度のジャンプで東京タワーをも飛び越えられるはずだ。

 生に対する衝動は放っといても満たされるけど、死に対する衝動がきっちり満たされるのは一度きりだ。それは花火や流れ星に似ている。人々が破滅型の人間に惹かれるのは「滅びの美」「散り際の美しさ」などの概念や現象が生命の真骨頂ということをどこかで確信しているからではないだろうか。

 

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