洋食屋さんやりたいとか言って

 

 男という生き物は2種類に分けられる。客が全然来ない喫茶店のマスターになりたい男か、客が全然来ないレコード屋の店主になりたい男……そしてそのどちらにもなりたい男…………それじゃ3種類じゃないか。何にしろ客が全然来ないというのがポイントだ。それでもなぜかやっていけたいのである。

 ジャズ喫茶のマスターになりたいなと思うこともあるけど、ここ数年は客が全然来ない料理屋さんをやりたい気分。これを書いている今はガラスケースにハムエッグやら焼き魚が入っている大衆食堂より、テーブルが5つもないような洋食屋さんをやりたい気分。オムライス、ハンバーグとかナポリタン、ピラフ、サンドイッチ(あとの3つは喫茶店をやることになっても出すつもりだ)などなど、ド定番の洋食を奇をてらうことなく実直に出したい。

 余力があればご飯とみそ汁がつく定食もメニューに載せてもいいな。そうなると日本の洋食という感じがしてよい。ごはんとおかずのスタイルはやっぱり日本人と相性がいいんだろう。餃子やステーキにライスがつくこと、どちらも本場の人間からすると違和感があるときいたことがある。

 ハンバーグ、ポークソテー、フライもの辺りはまだお箸で食べても洋食屋という感じだけど、生姜焼きとかになってくると大衆食堂方面に傾く危機感がある。うちの店を定食屋とか食堂にするつもりはないのだからバランス感覚を研ぎ澄まさないといけない。煮魚になるとダメ、完全にアウト。煮魚はアウト。

 もし万が一生姜焼きを出すようになっても漫画や雑誌は絶対に置かない。それからななめ向いた小さいテレビも絶対に絶対に置かないとかたーく決めている。この辺は料理人の矜持というやつである。