お湯でも飲んで

 

 笠地蔵だっけ、かさこじぞうだっけ。昔話。年末年始になると思い出す。おじいさんとおばあさんは山奥で貧しい暮らしをしているんだけど仲が良いの。でね自分が子どもの頃読んだ絵本の中に忘れられない一文があって。「お湯でも飲んで寝ましょうか」ってセリフ。おばあさんがおじいさんに「お湯でも飲んで寝ましょうか」って言うの。もうね、その一言に全てがあらわれてるよね。貧乏な暮らしとそれでも腐らない心持ちと深い愛情と。

 この話はおばあさんもえらいんだよ。売り物をお地蔵さんに掛けてきたおじいさんを責めない。すごいことだよね。「それはいいことをしましたね」とか言うの。何してんの!ってなるでしょ普通は。人間が出来た、そういう伴侶と出会えたおじいさんは幸せ者。

 で、米俵とか鯛とか御馳走がたくさん置かれてあって、無事に良い正月を迎えられました。めでたし……という話なんだけど、その御馳走がなくなったらまた貧乏に戻るのかしら、と心配になってしまう。子供の頃からそこは心配だった。めでたすなよって。