2022年9月のつぶやき

 

 ・日産のステージアやアベニール、プリメーラワゴンのことを考えていた。私は定期的にステーションワゴンのことを考える。ステーションワゴンの悪魔と契約しているので。

  ・太陽の塔に描かれている、赤いぎざぎざの線と、背中の顔のタトゥーを自分の身体に入れたい。と、何年か前に欲望したことをふと思い出した。けど、もう会うはずのない岡本太郎に会った時に怒られるのが怖くなって、やっぱりやめておこうねと言い聞かせた。

 ・自分の身体に染みついた臭いがとれない感じがする。もっと強力な石鹸なり洗剤なりを使って徹底的に除去したくなる。汗のにおいというか、体温を持った生き物(そしてその生き物はオスだ)が生きている匂い。

 ・EOS 55の蓋の爪が壊れてしまう。これで3回目?「もう直すのはやめて飾り物にしよう」と思うのも3回目。入っていたフィルムはパーだけど、とりあえず現像には出す。この55と同じぐらいの頻度で登板するEOS 630は全く快調だ。作りもしっかりしている。55に比べて機能は少ないし派手さはないけど普通に撮影には使える。クルマで言うと「走る・曲がる・止まる」はちゃんとできます、といったカメラ。基本的にEF40mmを着けっぱなし。これにはEF28-105mmとかEF85mm F1.8なんかは似合わないが、仕方ないからつけるべき時にはつける。

 

 ・初めての土地を歩いた。大きめの駅があって、いくつかの路線が通っている、すぐそばには私鉄が平行して走っている。その大きめの駅で降りてふらふら歩いた。一車線ずつの国道は混んでいて歩道も狭い。大阪の、四条畷大東市あたりの暗い土地を南北に通る道とどことなく似ている。夕方ということもあったが寂しい地域だと感じた。曇り空や夕方が板につく土地なんだろうなとも。送電塔があったり団地っぽい建物があったり、廃業したガソリンスタンドの建物そのままに駐車場になっていたり、東南アジアの人が経営しているであろう店が目についたりした。このあたりには外国人が多く住んでいるのかもしれない。ぐるっと歩いて駅のそばまで戻ってきたところで意識低そうなディスカウントスーパーに入った。私はスーパーを見てまわるのが好きだし、こういう店も好きだ。ここでもキャラ物を見かけ、うまく言葉にならない理由で胸が痛む。食器用洗剤の替えを買った。500mlで75円税込み。

 ・鴨居玲展を見に行った。規模は小さかったが満足度は高かった。前にも見た作品もあって胸の中に「おひさしぶりです」という言葉が起こった。『私の話を聞いてくれ(1973年)』も見るのはたぶん2回目だ。この絵は冬の屋外なんだろうな。私がこの人のそばにいたら話を聞くだろうか。行って良かった。本人の写真も展示されていたし、売り物のポストカードには作品だけでなく本人のポートレートまで用意されていた。身体が大きくて男前な人だなと改めて思う。写真のなかの鴨居は快活でエネルギッシュだ。よく食べてよく飲んでよく笑う人だったんだろうな、と想像する。

 部屋の片隅に『1983年2月3日 私』のポストカードを飾る。その一角の空気が重くなり、鬱々としている私が肯定されたような気がした。

 

 ・知らぬ間にスタバのご当地マグがリニューアルしていた。自分が知っているものより容量が減ったように思えるが、おさまりがよさそうなフォルムだ。ひとつぐらい買ってもいいかもしれない。スタバのご当地マグはなぜか、The Dave Brubeck Quartetの『jazz impressions of japan』というアルバムを連想させる。理由はうまく説明できない。

 

 ・時間に余裕があるときはお香をたいている。α-stasionを聴きながら、『ヨコハマ買い出し紀行』『カブのイサキ』『コトノバドライブ』を読むなどして暮らしている。『発見!仰天!!プレミアもん!!! 土曜はダメよ!』を見たり、3DSポケモン金銀クリスタルを遊んだり。よく冷えたウォッカを飲んだり。近頃の私はフィルムカメラで写真を撮らないでいる。現像所が近くになくて――それから馴染みの現像所にしなくていい義理立てをする意味もあって——それから時間もなくて。

 あとから振り返って、今のこの2022年9月頃の生活を良かったものだなあと思うかもしれない。

 ・大雨が降ったり雷が鳴っていたりするとハンディレコーダーを窓の外へと向けるクセがあり、それは環境が変わった今も変わらない。後から聞いたとき音声が映像を想像させることを祈っている。モノクロの写真が色を想像させるように。

 

 ・「僕は温かい濃いコーヒーと、バターを塗った厚切りのトーストを深く夢見ながら阪急電車の線路に沿って黙々と歩き続け、相変わらずいくつもの空き地といくつもの建築現場を通り過ぎる。そして子供を学校か駅まで送り届ける途中の、何台ものメルセデス・ベンツEクラスとすれ違う。メルセデス・ベンツにはもちろん瑕ひとつなく、しみひとつない。象徴に実態がなく、流れる時間に目的がないように。」(村上春樹『辺境・近境』)