テクニカルバックE

 

 キヤノンが1987年から生産販売し続けている一眼レフカメラ、EOS。その初期の製品群に用意されたオプションのうち最も、と言っていいほど手に入りにくい(かつ全キヤノン製品の中でもたぶん五指に入るほど。と言っても過言ではないほどレアな)アイテム。それがテクニカルバックEである。

 マニアに向けてコレクションの紹介をいささか自慢げに行いたい。だが一方で誰も羨望のまなざしを向けてくれないことに薄々気付いている。あまりに知名度が低すぎるからである。カメラと名の付くものを所有する人全体の0.000数%しか知らないだろう。し、触ったことのある人、持っていた人、持っている人となると更に少ないはずだ。だがインターネット上にほとんど情報がないので写真をあげておこうと思いたった。

 

 これがテクニカルバックEだ。

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 これを、f:id:artexhibikion:20200625014852j:plain

 このように取りつける。無地の蓋か日付が入る蓋(「クオーツデートバックE」)と交換するかたちだ。

 

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 ちなみにクオーツデートバックEは2029年まで対応(=西暦下2ケタを印字できる)している。これより後に発売されたにも関わらず、2029年より先に使えなくなってしまうカメラや日付蓋は多く存在する。*1

 そのことを考えると最初のEOSにはかなり気合が入っていたのかもしれない。実際に私は2020年の今も愛用しているし、カメラは調子よく動いている。

 当時オプションだった日付蓋はやがてカメラに標準装備されることになる。振り返ればAシリーズ用の「DATA BACK A」、T90の「コマンドバック90」「データメモリーバック90」、あとにはEOS-1の「コマンドバックE1」などなど、全国に250人程いると言われるキヤノンカメラ裏蓋研究者が押さえるべきアイテムは割と沢山ある。

 

 これがキーボードユニットEだ。文字入力が出来る。

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 テクニカルバックEは多機能で、後のカメラに内蔵されるオートブラケティングをはじめとして、インターバル撮影のコントロール、撮影時データの写し込みも出来る。撮影時の設定など今はExif情報を見れば一発で分かることだ。だがその需要は昔からあったのだろう。他社製品にも同様に機能を持つもの(チノンのDB-010、ニコンのMF-23など)があった。

 それから任意の文字を打ち込むことも出来る。むかし日付以外にちょっとしたメッセージ(「かわいい!」「HAPPY BIRTHDAY」など)を写し込めるカメラがあったが、それとは比べ物にならない自由度だ。ってなんか書いてて悲しいなあ。実際の写真を乗せようと思ったんだけど、がっつり自分の名前を入れていたからやめた。

 プログラム線図の編集はこのテクニカルバックEがもつ最も優れた機能だ。プログラム線図というのは言わば明るさに関するカメラの思考回路。露出に関してカメラにどう考えさせるか、どういう挙動を取らせるか、ということを人間が決められるわけである。ここまで細かく深いところまでユーザーがオペレート出来るというのは本当に素晴らしい。キヤノン万歳。愛してる。棒棒鶏の次ぐらいに好き。

 ところが。今のカメラではこれが出来ない。少なく言ってもキヤノンのカメラに関しては。今に至るまで。この機種でこのオプションを使う以外には。なぜ。だから私は未だにマニュアルモードで撮っている。どうもカメラと意見が合わないのだ。マニュアルモードでしか撮らない理由は他にもあるが、年々どうでもいい機能を盛り込んでいくぐらいならこういう基本の機能をつんでほしい。一々パソコンと繋がないといけないとか、サービスセンターに持って行かないと出来ないとかでも構わない。……もしかしたらプロ向けサービスには用意されているのだろうか。いや考えにくい。

  ちなみに「インターフェースユニットTB」というパソコンと接続するための製品もあった。これは持っていない。それから情報を記憶させておくため(だと思われる)のカセットも存在したようだがこちらも詳しいことは分からない。

 

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  カメラやレンズのコレクションをかなり減らした。これは手放すと一生再会出来ないと分かっているからまだ手元に置いてある。だが日常的に使うわけでもない。かといって20年ぐらい経てば100万円で売れるというものでもない。カメラにも愛好家や研究家が発生しにくい領域というのがあって、30年前のAFフィルム一眼レフというのはまさしくそうだろう。それに数の少なさに価値が伴うのはそれが程々に知られているからこそだ(誰にも分からない謎の機器に値段はつけられない)。加えてその稀少さは年月によって磨かれる。例えばライカをはじめとするビンテージ品は投機の対象になるぐらい盛んに取引されている。そういう意味ではキヤノンのEOSはどこまでも道具だ。

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*1:そのひとつの大きな区切りが2019年だった。ほとんどのカメラメーカーが同じ会社に日付写し込み機能を外注していたから起こった