ラジオのこと

 

 子供の頃お小遣いでどんなものを買ったか覚えていますか。子どもというのはお小遣いでヘンなモノを買う生き物なのかもしれない。勉強机の鍵がかかる引出しにヘンなモノばかり仕舞うのと同じように。初めて買ったものではないけれど、よく覚えている使い道のひとつがラジオだった。スピーカーのかわりに安っぽいイヤホンがついていた。いかにもチャチなスイッチの横には書かれていたのはダサ家電にありがちなカタカナだった気がする。それはスキャンラジオでチューニングが出来なかった。ボタンを押すたび次の周波数、次の周波数、と送られ、リセットボタンで最初の局に戻る。これを手に入れてから嬉しくて嬉しくて時間を見つけてはラジオを聴いていた気がする。イヤホンして歩く自分はなんとなく大人に近づいたと思っていたかもしれない。

 

 ずっと自室の片づけをしている。どうやらこの作業に終わりはないらしい。スペインのデカい教会や大都市の駅前再開発みたいに(いやもっと非建設的で不毛だな、水際に砂のお城を建てるに近いというか、賽の河原的というか……)。日々様々な物品が出土するんだけど先日は中学生の時に買ってもらったであろうラジオが出てきた。前述のモノとは別のラジオだ。こちらは誰もが聞いたことある会社の名前が書かれた、小型の、電池で動く大したことない一品だ。これの発掘がきっかけで最初に書いたラジオ体験がよみがえったのだった。

 ひととおりのことはそれなりにこなせるスマホが跋扈した昨今、かえって単機能の品物は贅沢品に思えてくる。カメラもそうだし、メモ帳、地図帳、ラジオもそうだ。ラジオを聴くことしか出来ない物品にお金を払う人って今どれだけいるだろう。

 十数年ぶりに電池を入れてみる。地元のFM局に周波数を合わせる。アンテナに触れるとクリアに受信するようになるんだったね。小さなラジオはよく箱鳴りしている。そのチープな音合いはお世辞にも高音質とは言えないのだけれど、しかし生々しく(つまり音の再現性が高く)感じられるのが不思議なところだ。しばらく、パソコンでYouTubeを流しっぱなしにする代わりにラジオをかけることにした。